今月の提言


6月の提言:『ダイバーシティ経営2.0の時代』

日本でダイバーシティ経営が叫ばれて久しい。経産省は2012(平成24)年から「ダイバーシティ経営企業100選」としてベストプラクティス企業を表彰している。そして、2015年からは中長期的に企業価値を生み出し続ける経営上の取組を「ダイバーシティ2.0」と位置づけて、新たなステージに入った。過去5年間で表彰企業も205社が選定され着実に定着しつつある(注1)。

ところで、ダイバーシティ経営と業績の間に因果関係があるかどうかについて様々な議論がある。正の相関関係は認められるが、もともと業績のよい企業がダイバーシティ経営を推進しているとも考えられるからだ。ノルウェーでは、女性取締役比率が2008年までに40%に満たない企業を解散させるという法律が制定された。南カリフォルニア大学のケネス・アハーンらは女性取締役比率と企業価値との関係に因果関係があるかどうかを検証したが、結果は女性比率を高めたことで企業価値が低下した(注2)。

ダイバーシティ経営を推進するのは、人材の多様性がさまざまなステークホルダーの企業価値向上に寄与すると期待されているからだ。女性や外国人の積極的登用が目立ってきたのも、グローバルな競争環境下でマネジメントを変えていこうという意欲の現れだろう。だが、このように人材の多様性というと、現状では性別、年齢、人種そして健常者と障がい者など属性面での多様性を意味することが多い(注3)。

しかしながら、こうした属性の多様性だけでは真のダイバーシティ経営とはいえない。各属性の中の個々の多様性が求められるのである。たとえば、女性の中の多様性、外国人の中の多様性だ。生物多様性の議論では、同じ種の中で「個体」の多様性が環境変化への適応力を高めることが分かっている。人材にも同様な視点が求められると思う。真の多様性とは、属性の多様性を超えて個々の人材の多様性を認識して活用することなのである(注4)。

経営学では、女性や外国人といった属性や外見から判別可能な「デモグラフィー型」の人材ダイバーシティと、実際の業務に必要な能力や経験、知識など「タスク型」の人材ダイバーシティとを区別している。企業価値を高めるために重要なのは、後者のタスク型ダイバーシティであることがわかっている。この意味では、まだ日本企業は「デモグラフィー型」ダイバーシティの段階にあると思う。

ラグビーワールドカップ2015で日本代表が強豪南アフリカに勝って日本中が盛り上がったことがあった。代表選手をみると、筆者には日本人や外国人というデモグラフィックな観点を超えているように思える。つまり、世界で勝つための選手(いわゆる個体)を選んだ結果、結果として属性と個々の選手の多様化が実現したのだ。これも「世界で勝つ」という共通の目的があって、それを関係者が共有していたから実現できた(注5)。

日本企業の中でもグローバル展開を見据えて、外国人採用を強化している企業が目に付く。パナソニック、ファーストリテイリングそして楽天など、各社のグローバル展開度の違いもあり各社の人事政策も異なる。たが、これから世界で戦えるタスク型ダイバーシティを考えて人材を採用しようという姿勢は共通していると思うのである。

上述した通り経産省は過去5年間ダイバーシティ経営のベストプラクティス企業を選んできた。この意味では事例は多いといえるが、「デモグラフィー型」ダイバーシティを超えて真の意味でのタスク型ダイバーシティ経営が実践されているかといえば疑問が残る。いわゆる組織の慣性なるものをどこまで克服して現場に浸透させるかなど課題は多いことだろう。

そこで、現在ダイバーシティ経営を推進している企業も含めて、企業価値を向上させるタスク型ダイバーシティの進捗度を確認してはどうか。そして、いま一度下記の3点を再確認してほしい。
  1. ダイバーシティ2.0の理念になっているか。
  2. タスク型人材の分布は明らかになっているか。
  3. トップのリーダーシップとコミットメントは十分か。
現状では女性管理職や女性役員の比率などデモグラフィックな数値目標を掲げている企業が多い。だが、まずは属性面での多様性は必要だが、次のダイバーシティ2.0に進むにはタスク型ダイバーシティに注力すべきである。

ダイバーシティ2.0の理念の確立と共有化によって、ダイバーシティ経営の推進がより強化されることだろう。そして、それには経営トップのリーダーシップの発揮とコミットメントが不可欠である。グローバルな環境の中で競争し新しい未来を築くには、さまざまな多様性と真剣に向き合ってそれを乗り越えて真のダイバーシティ経営を確立することが肝要だ。


注1:
「ダイバーシティ経営企業」に関しては下記の経産省のサイトを参照.

http://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/kigyo100sen/practice/index.html

注2:
ノルウェーにおいて女性取締役比率を高めたことで企業価値が低下した点は下記を参照.

中室牧子&津川友介「女性管理職を増やすと企業は成長するのか」(2017年3月3日,ダイヤモンド・オンライン)

https://diamond.jp/articles/amp/119876

ダイバーシティ経営が財務業績にプラスの影響を与える点は下記の最近の研究結果を参照.

Paul Gompers and Slipa Kovvali, "The Other Diversity Dividend." Harvard Business Review July-August 2018 issue, pp.72-77.

注3:
女性の役員・幹部への登用等に関しては下記の拙稿を参照.

20013年6月の提言:『ダイバーシティ経営の推進で何が変わるか』

http://www.csconsult.co.jp/teigen/1306.html

注4:
生物多様性と人材多様性の議論については下記を参照のこと.

武石恵美子「人材多様性で強い組織を」(日本貿易会月報・2015年9月号)

http://www.jftc.or.jp/shoshaeye/pdf/201509/201509_13.pdf

注5:
日本ラグビー代表とダイバーシティに関しては下記を参照.

20015年9月の提言:『日本ラグビー代表とダイバーシティ経営』

http://www.csconsult.co.jp/teigen/1509.html



【竹生孝央(ちくぶ・たかお)】(2011年より孝夫を「孝央」と改名しました)

 


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