今月の提言


7月&8月の提言:『ビジネスパーソンが夏休みに読むべきお薦めの書!』

今年の梅雨明けは例年より遅かったが、すでに夏季休暇入り人たちも散見する。今年も夏休みの読書向けに昨年に続き比較的新しい書籍から5冊を選んでみた。テーマは多様だが、もし興味がある書物があれば是非ご一読をお薦めしたい(注1)。

今年のお薦めは次の5冊である。
  1. ラス・ロバーツ(村井章子訳)『スミス先生の道徳の授業』
  2. ハンス・ロスリング他(上杉周作&関美和訳)『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』
  3. 新井紀子『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』
  4. フレデリック・ラルー(鈴木立哉訳)『ティール組織―マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』
  5. 猪俣哲史『グローバル・バリューチェーン』
アダム・スミスは経済学の父といわれ1776年に『国富論』を上梓した。これに先立つこと17年、1759年に出版されたのが、『道徳感情論』だ。『スミス先生の道徳の授業』は原著を読む時間のない現代人のためにアダム・スミスの思索を現代に蘇らせたものである。

スミス先生は「富や名声は幸福にはつながらないのだ」という。そして愛される人間になれという。それには富や権力にこだわらず、知恵と富を蓄え、尊敬される人間になれと説く。思慮深く、正義を重視し善行を行い、隣人を愛し、人に優しくするなどの積み重ねが世界をよくしていくというのだ。さらに、自分の理想を他人に押しつけてはいけない、押しつければ反発をまねき世界は混乱するという。まさに時間を超えて現代にも通用するスミス先生のお言葉で、幸せに生きるための人生の書である。なお、スミス先生の含蓄するところを熟考したい方はラス・ロバーツの解説本よりも原著をお薦めしたい(注2)。

FACTFULNESS(ファクトフルネス)は世界で100万部を超えるベストセラーだ。ファクトフルネスとは、データや事実に基づき世界を読み解く習慣をいう。賢い人ほどとらわれる10の思い込みから解放されれば、癒され、世界を正しく見るスキルが身につくというのが本書の特徴だ。そのエッセンスは「事実に基づいて世界の見方を広げること」にあるといえる。

たとえば、世界を先進国か、発展途上国かと2分し、「世界は分断されている」と思い込みがちである。しかし、欧米とその他の国々とは、乳幼児死亡率、所得、民主化度合い、医療へのアクセスなどのデータをみれば明らかだが、分断されているというよりも世界のほとんどが中間にあるという。

さらに「世界がどんどん悪くなっている」というのも事実だろうか。貧困層は過去20年で約半分になり、世界の平均寿命は70歳を超え、奴隷制度、石油流失事故、HIV感染、戦死者、乳幼児の死亡率、児童労働、災害による死者数、飢餓などは減り続けている。また女性参政権、安全な飲料水、識字率、予防接種などは増え続けている。物事のポジティブな面よりもネガティブなものに気づきやすい本能が災いしてこうした誤解が生じると指摘する。

こうして著者は客観的なデータに基づき多くの人が思い込みがちな10の視点を提示する。そして、末尾にはファクトフルネスの10のルールが示されている。著者は最後に「事実に基づいて世界を見れば、世の中もそれほど悪くないと思えてくる。これからも世界をよくし続けるために私たちに何ができるかも、そこから見えてくるはずだ」と述べている。一読に値する書である。

『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』はビジネス書大賞2019大賞の他、第27回山本七平賞、第39回石橋湛山賞、第27回大川出版賞、第66回日本エッセイスト・クラブ賞などを総なめした書物である。著者は数学者で国立情報学研究所教授。東大合格を目指すAI「東ロボくん」の育ての親でもある。

著者はAIが人間を超える、いわゆるシンギュラリティが到来することはないと断言する。なぜならば、AIはコンピュータであり、コンピュータは四則計算をする機械でしかないからだ。どんなに高度になっても、AIは意味を理解しないので読解力がないのである。ただし、AIでもできる仕事は、この先どんどん奪われていくしかないことは確かだ。

やはり、問題なのは著者が調査結果から示しているように中高生の読解力の低下だ。教科書も読めない子どもたちが半分もいるという結果は著者のみならず憂いを禁じえない。偏差値で50前後の大学では、明らかに試験の問題を理解できていない学生が少なくないのも当然だと思い当たる。本書は教育関係者や親のみならずビジネスパーソンにとっても示唆に富む書物である。

『ティール組織』は将来の組織のあり方を示し、組織論の古典になるだろうといわれている。フレデリック・ラルーは上司・部下関係なくフラットな組織の中で全員が主体的に動き、決定権を持つマネジメント手法を提唱。

では、どうすればティール組織を実現できるのか。ラルーは、ティール組織にはマネジメント面で次の3つのブレークスルーがあると指摘する。
  • セルフマネジメント(自主経営) 
  • ホールネス(全体性の発揮) 
  • 進化する目的
ティール組織におけるセルフマネジメントとは、意思決定に関する権限と責任を全メンバーに与え、一人一人が他者の支持を仰ぐことなく、自ら設定した目標や動機によって生まれる力を組織運営に活用することをいう。

セルフマネジメントを組織でより有効に機能させるためには、メンバーの能力が十分に発揮されることが肝要だ。また、個人的な不安やメンバーとの関係における課題に組織としてコミットすることが求められる。これを、ラルーは「ホールネス(全体性の発揮)」と表現している。組織内の心理的安全性を高め、すべてのメンバーが個性や長所を全力で発揮できる環境を整えることによって、集団的知性が生み出す力を最大化できるのである。

生命体ともいわれるティール組織は、新たな目的を求めながら進化していく。そのため、従来の組織のように存在目的やビジョンを固定するのではなく、組織の存在目的が変化していないかどうか、つねに留意して進化させる必要がある。

本書は今後の組織を模索するビジネスパーソンにとって必読書といえる。

最後の『グローバル・バリューチェーン』は複雑な国際生産分業ネットワークにおける付加価値を分析するための最新手法(GVC分析)を解説したものである。GVC分析によって東アジア経済の一体化や米中貿易戦争、第4次産業革命の影響といった国際経済の構造とダイナミックな動きを解明。数式はほとんど使わず、図表で直観的に理解できるように解説しているので、グローバルに事業を展開している企業のビジネスパーソンにとっても理解しやすい。

以上、今回は5冊の推薦書を紹介した。お気に入りの書物があれば夏休みの読書リストに加えていただければ幸いである。


注1:
5冊の推薦書に関しては版元等の情報は割愛した.お気に召した書籍に関してはアマゾンや書店等でご確認ください.

注2:
もし興味があればアダム・スミス『道徳感情論』あるいは『道徳情操論』(The Theory of Moral Sentiments)の原著を読むことをお薦めしたい.岩波文庫の翻訳は悪訳で有名なので講談社学術文庫か未来社の単行本『道徳情操論』を推薦したい.読みやすさからいえば2014年に出版された日経BPクラシックス版もお薦めだ.



【竹生孝央(ちくぶ・たかお)】(2011年より孝夫を「孝央」と改名しました)

 


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