今月の提言


7月&8月の提言:『ビジネスパーソンが夏休みに読むべき5冊のお薦めの書』

今年も夏季休暇の時期になってお薦めの書物をピックアップしてみた。今回は比較的新しい書籍から5冊を選んでみた。テーマは経営戦略、データ分析そして歴史である。もし興味がある書物があれば是非夏季休暇中にご一読いただければ幸いである。

今年のお薦めは次の5冊である(注)。
  1. 琴坂将広『経営戦略原論』
  2. 野中郁次郎他『失敗の研究―日本軍の組織論的研究』
  3. 中室牧子&津川友介『原因と結果の経済学―データから真実を見抜く思考法』
  4. 伊神満『「イノベーションのジレンマ」の経済学的解明』
  5. エヴァル・ノア・ハラリ(柴田裕之訳)『サピエンス全史:文明の構造と人間の幸福(上・下)』
巷にはいわゆる戦略本があふれているが実践と理論のバランスがとれている本は少ない。今年6月に出版された『経営戦略原論』は実学としての「最適な処方箋」と社会科学としての「普遍的な法則性」を模索した力作である。500頁に及ぶ大作だが最初の100頁は経営戦略の定義と歴史なのでこの部分を飛ばして読んでもいいだろう。すでに戦略の知識があり実践している方は、辞書的に必要な部分を熟読する手もある。企業の将来を考えるべき立場にあるビジネスパーソンは座右におくべき必読書だ。

なお、本書の主な内容は下記の通り。

はじめに
第1部 経営戦略の形成――紀元前から一九六〇年代まで
 第1章 「経営戦略」をいかに定義するか
 第2章 経営戦略前史

第2部 経営戦略の理論化――一九六〇年代から二〇〇〇年代まで
 第3章 経営戦略の黎明期
 第4章 外部環境分析
 第5章 内部環境分析

第3部 経営戦略の実践――理論と現場をつなぐもの
 第6章 事業戦略を立案する
 第7章 全社戦略を立案する
 第8章 経営戦略を実行する
 第9章 経営戦略を浸透させる

第4部 経営戦略のフロンティア――経営戦略の現代的課題
 第10章 新興企業の経営戦略
 第11章 多国籍企業の経営戦略
 第12章 技術の進化が導く経営戦略の未来
おわりに

『失敗の本質』は野中郁次郎氏他主に防衛大学校の教員たち(当時)が執筆陣だ。1984年に初版が刊行されたが今読んでも新鮮に感じる。戦史を踏まえて日本軍の組織的問題点を導き出すのだが、現在の日本企業の問題点と驚くほど類似している。すなわち、日本軍の失敗の本質は概ね次の通りである。

戦略上の失敗要因は、「あいまいな戦略目的」「短期決戦の戦略」「主観的で帰納的な戦略策定」「狭くて進化のない戦略オプション」などである。他方、組織上の失敗要因は、「人的ネットワーク偏重の組織構造」「属人的な組織統合」「学習を軽視した組織」「プロセスや動機を重視した評価(成果ではなく)」である。こうした失敗要因をみて、わが社は全く該当しないと言い切れる日本企業が何社あるだろうか。

次の2冊はデータサイエンティストが注目されビッグデータの時代に必読の書である。『原因と結果の経済学』は今もっとも旬な実証研究者の共著だ。近年政策形成や教育、医療、労働などの分野で「エビデンス(科学的根拠)」という言葉が注目を集めている。本書はこの「エビデンス」を導き出すための考え方、「因果推論」についてわかりやすく紹介したものだ。、因果推論とは著者たちは「因果関係なのか、相関関係なのかを正しく見分けるための方法論」であると述べている。

統計学の入門書でも、単なる相関関係か、因果関係のある相関関係かを論じている。因果推論はデータから有用な知見をえるために決定的に重要なのである。この意味で著者たちが述べているように、因果推論は「データ氾濫時代に必須の教養」なのだ。

『「イノベーションのジレンマ」の経済学的解明』は名著『イノベーションのジレンマ』を「共食い」「抜け駆け」「脳力格差」などの産業組織論の概念を使って「構造推計」し謎を解明したものである。本書は著者の博士論文を一般のビジネスパーソンにもわかりやすいように書き下ろしたものだ。読みやすく身近な例も豊富で第9章までは一気に読み進むことができる。経営学分野での実証研究も最近は進んでいるが、最先端の経済学者の実証分析の実際を素人に知らしめる良書であるといえよう。ちなみに、ネタバレになるが、既存企業に欠けていたのは「能力」ではなく「意欲」だということだ。『原因と結果の経済学』とともに一読することをお薦めしたい。

最後の『サピエンス全史』は上下あわせて約600頁、全世界で800万部を突破した世界的ベストセラーだ。「ビジネス書大賞2017」を受賞しているのですでに読了した方も多いことだろう。著者のユヴァル・ノア・ハラリ氏は1976年生まれのイスラエル人歴史学者である。ハラリ氏はホモ・サピエンスの歴史を俯瞰して、ホモ・サピエンスだけが繁栄した理由を明らかにしている。同氏は「弱きホモ・サピエンスが、どうして食物連鎖の頂点に上がり、文明を打ち立て、地球を支配するまでに至ったのか?」という命題に対して、ホモ・サピエンスの「虚構」を信じる能力にあると主張している。

実体のない虚構とは、国家、宗教、企業、貨幣、法律、自由などの概念であり、虚構は人々が協力することを可能する。その結果複雑な社会を形成し得たのだと述べている。人類史の進化論的アプローチを超えて現代の資本主義を考えるうえで重要な示唆を与える書であることは確かだ。サピエンスとテクノロジーの未来を予測した同氏の新著『ホモ・デウス』はすでに世界で400万部を超えるベストセラーで、今年9月に日本語版が刊行される。 『サピエンス全史』とともに『ホモ・デウス』も読書リストに加えたい。

以上、今回は5冊の推薦書を紹介した。お気に入りの書物があれば夏休みに紐解いてほしい。


注:
5冊の推薦書に関して版元等の情報は割愛した.お気に召した書籍に関してはアマゾンや書店等でご確認ください.なお,『失敗の本質』の書籍版初版はダイヤモンド社より1984年5月刊行,1991年8月に中央公論社が文庫化した.



【竹生孝央(ちくぶ・たかお)】(2011年より孝夫を「孝央」と改名しました)

 


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