今月の提言


11月の提言:『サービス産業の生産性向上が日本の未来を決める!』

日本経済の将来を考えるとバラ色の夢は描きにくい。過去を振り返ると、バブル崩壊後の1994年から20年余の間名目GDPは横這いだった。欧米の他の先進諸国はこの間名目で約2倍になっているのに日本だけおいて行かれた感がある。

では、将来はどうかといえば経済成長率は資本の増加率、労働の増加率及び生産性の増加率の和であることを考えれば明るい未来はみえてこない。資本つまりお金を使った設備投資などは国内市場が縮小傾向にあれば積極的になるとは考えにくい。労働も少子高齢化が進む中で生産年齢人口は1995年をピークに逓減しており、労働の増加率が容易に増える環境にはない。そこで、残るは生産性の向上が頼みの綱となる。

しかしながら、日本の労働生産性は世界でも低いのである。日本生産性本部によると、2015年の日本の労働生産性は74,315ドルでOECD加盟35ヵ国中22位であった。ニュージーランド(72,109ドル)をやや上回るが、カナダ (88,518ドル)、英国(86,490ドル)、ギリシャ(79,979ドル)等をやや下回る水準だ。米国(121,187ドル)と比較すると6割に過ぎない(注1)。

日本の製造業の労働生産性は1990年代から2000年代初頭までトップクラスだったが、その後順位が大きく後退した。それでも製造業の労働生産性は1人あたり1,066万円、サービス産業は1人あたり791万円と差があるのが現状だ。今やサービス産業はGDPの4分の3を占める。製造業との格差の縮小とGDPに占めるウエートの大きさとの両面でサービス産業の生産性向上が求められるのである。政府、経済産業省が10年以上前からサービス産業の生産性向上に取り組んでいるのもこのためである(注2)。

ところが、日本のサービス産業の生産性向上は容易ではない。たとえば、外食、ホテル、小売など米国の労働生産性を100とすれば、日本は5割から6割ぐらいだ。しかし、このような差の背景には次の2点がある。
  1. 商慣行の違い
  2. 消費者、ユーザーの要求水準の違い
米国のスーパーの売場にはほとんど店員はいない。だが、日本では対面販売の慣行が残っていて鮮魚売場や精肉売場には店員を配置している店が少なくない。昔の商店街等にあった魚屋や肉屋の対面販売が残っているのだ。そして、魚屋であれば魚をその場で三枚におろして、刺し身や焼き魚用に切ってくれる。肉屋であれば、ヒレ、サーロインあるいはランプ、イチボなどステーキ用に好みの大きさに切って提供してくれるのだ。こうした商慣行を早急に廃止するのは難しい。

日本の消費者、ユーザーの要求水準は世界からみて高いといわれている。日本の伝統的なおもてなしが当たり前のサービスとして受け入れられているからだろう。たとえば、日本と欧米のホテルチェーンに泊ると、たとえば同じシェラトンでもサービスの違いを感じる。日本ではそれだけ人手をかけておもてなしをしているのである。

上述した点を踏まえると、サービス産業の生産性を欧米並みにすることは容易ではない。では、どうすればよいのか。地道に次の3点を実行するしかないだろう。
  1. IT投資等の促進
  2. イノベーションの促進
  3. 同業界・他業界の成功モデルの学習と導入
わが国のサービス産業の労働生産性の上昇率が低迷した要因は、IT資本蓄積の不足とTFP(全要素生産性)上昇率の低迷にあることが分かっている。それゆえ、IT化の促進と技術革新、経営革新、ビジネスモデル革新等のイノベーションの促進によるTFPの向上が不可欠である(注3)。

さらに、森川正之氏の研究結果によれば、サービス産業の生産性向上の鍵を握るのは経営力だという。とはいえ、これでは対策にならないので、同業界や他業界の成功モデル、成功事例から学習し自社に導入する手がある。そして、学習により経営力が涵養されればよいのではないか(注4)。

生産性はアウトプットをインプットで割って算出されるので、生産性の話になるとトップやコンサルタントは分母のインプットを減らせばいいという話になりがちだ。あるいは、分子のアウトプットを増やせばいい、付加価値の高いサービスを提供すればよいということになる。だが、ちょっと待ってほしい。単に分母のインプットを減少させて生産性を上昇させても長続きするだろうか。また、分母のインプットを一定して分子のアウトプットを増加させることは容易なことなのか。やはり、生産性向上の鍵はイノベーションにあるのである。この点を誤解しないでいただきたい。

マクロ経済におけるサービス産業の生産性向上は日本経済の未来を決めるといっても過言ではない。同時に、サービス産業に属する企業にとって、生産性向上は業績に直結する生き残り策といえる。本稿が生産性向上策を考える際の一助になれば幸いである。


注1:
労働生産性の国際比較は下記を参照のこと.

独立財団法人・日本生産性本部『労働生産性の国際比較2016年版』(2016年12月)
http://activity.jpc-net.jp/detail/01.data/activity001495.html

注2:
下記の生産性データベースを参照.

独立財団法人・日本生産性本部『主要産業の労働生産性水準』(2016年)
http://www.jpc-net.jp/jamp/

注3:
サービス産業の労働生産性の上昇率が低迷した要因に関しては2007年版『通商白書』第3章を参照.労働生産性が顕著に伸びている金融仲介業,通信業,卸売業及び不動産業をみると,不動産業を除きTFPの上昇,IT資本蓄積及び非IT資本蓄積のいずれもが労働生産性の上昇に寄与している.

注4:
森川正之氏の研究結果の概要は下記を参照.

森川正之「サービス産業の生産性は本当に低いのか?」(独立行政法人・経済産業研究所)

https://www.rieti.go.jp/jp/publications/rd/025.html



【竹生孝央(ちくぶ・たかお)】(2011年より「孝央」と改名しました)

 


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