今月の提言


3月の提言:『日本の産業が中期的に衰退するリスクにどう対応するか!』

昨年12月に発表された日本経済研究センターの2030年までの経済見通しが話題になっている。日本の主要産業は人口減少、高齢化そしてICTの進化・深化に対応できず、労働生産性の伸びが急低下する可能性が高いという衝撃的な内容だった。つまり、産業全体が中期的には衰退するリスクがあるわけで生産性の改善が急務である(注1)。

生産性はアウトプットをインプットで割って算出される。したがって、生産性を向上させるには、分母のインプットを減らすか分子のアウトプットを増やすことが肝要だ。しかし、経済学でいうところの収穫逓減の法則にしたがえば、ある一定水準を超えるとアウトプットが伸び悩む。他方、インプットを減らすのも簡単ではない。たとえば、インプットをマンアワーとすれば、人を減らせば働き方改革どころではなく抜本的な業務革新がなければ労働時間が増えることになる。やはり、生産性向上の鍵はイノベーションにあるのである。

では、どのように分子、アウトプットを向上させるか。筆者は価格戦略の重要性を再認識して経済学やゲーム理論などから学ぶべきだと考えている。例をあげると、価格差別、バージョニング、バンドリングなどだ(注2)。

価格差別は需要の価格弾力性に注目して消費者・ユーザー属性によって異なるプライシングをすることをいう。たとえば、旅行客をビジネス客と一般旅行客に分けて航空運賃を考えてみよう。ビジネス客の場合は運賃に関わらず仕事の必要があれば利用するだろう。つまり、弾力性が小さい。一般客の場合は、自分の財布から支出するので高ければ利用を控え安い時期に利用しようとし弾力性が大きい。つまり、ビジネス客は高く、一般客は安く運賃を設定することによって売り上げを伸ばすことができる。また、映画館などの大人料金を高くして、子ども料金を安くする価格設定も弾力性に基づく価格差別である。

ちなみに、山本周五郎原作で三船敏郎が主演した映画「赤ひげ」をご存じの方は多いだろう。原作や映画ではお金持ちからは高い診察料をとって貧しい人には安く診察する様子が描かれている。これも立派な価格差別だ。自社のモノやサービスの客層を分析して需要の価格弾力性を再チェックして価格差別の適用可能性を検討することをお勧めしたい。

次に、バージョニングは、高価格でも購入する顧客と低価格でしか買わない客とにグループ分けした価格差別の一種だ。書籍のハードカバーと文庫本、アプリケーションソフトなどのレギュラー版とプレミアム版などが代表例である。また、ユーバーサル・スタジオ・ジャパンの待ち時間を短縮できる「エクスプレス・パス」もバージョニングだ。 バンドリングはいわゆる抱き合わせ販売であり売上増になることが知られている。新聞購読を紙と一緒にしてオンライン購読を有料化したり、マイクロソフトのオフィスなどが代表例だ。現在は東京ディズニーランド他のテーマパークは入場料とアトラクションを込みにしたパスポートが主流になっているが、これもバンドリングである。

それから、モノ、製品を販売した後に収益を上げるやり方をバンドリング(戦略)をいう。たとえば、販売後の消耗品販売やサービスを収益化した複写機、プリンターが代表的だ。ジェットエンジンやエレベーターも販売後のサービスで収益に貢献している。

以上、分子のアウトプットを向上させるには量を追うことも大事だが、価格設定を再検討して価格戦略のイノベーションを期待したい。

分母のインプットに関しては、さまざまな課題がある。まずは労働人口の減少が大きな課題だ。しかし、2045年問題ともいわれるシンギュラリティが現実化してAIが人間の頭脳を超える日が来ると、人間がAIに代替される職種もある。ただ、最近の研究ではAIが普及しても人間が必要な職種も派生するといわれているが、労働人口の減少を補うことは確かだろう。本稿では冒頭の2030年、約10年後を考えると、基本的にはAI、ロボットを含むICT技術をいかに活用するかがインプットに影響を及ぼし生産性向上に寄与する。

しかしながら、日本においてインプットを減少させるにはもっと本質的な課題がある。たとえば、日米の生産性を比較すると小売業の場合日本は米国の約半分である。これは日米のスーパーに行けば差は歴然としている。米国の場合はレジ以外にスタッフはほとんどみかけないし、レジも無人化比率が高くなっている。一方、日本のスーパーの場合は、対面販売の商慣習もあり店内にはスタッフがいる上にレジの無人化も遅れている。

商慣習や消費者の消費行動は一朝一夕に変えることは難しい。だが、先日日経新聞で「イタリア人に学ぶ働き方」を読んで、今後のインプット問題は消費者、ユーザーの要求水準に言及することなしには解決しないと思った。執筆者であるワインジャーナリストの宮嶋勲氏は最後に下記のように締めくくっている(注3)。

「ゆとりある働き方を実現するためには、消費者も求めすぎないことが大切だ。消費者が求めるレベルを下げない限り、実現しない」

先年、大手広告代理店の女子社員が過労自殺した件が話題になった。これも会社のマネジメントの問題とともにクライアント側の時間帯を無視した「求めすぎ」が大きいように思われる。同様に日本の消費者、ユーザーの求めすぎによってインプットを増やしているケースも多いのではないか。

こうした「求めすぎ」問題に関してLCC(格安航空会社)がヒントになると考える。つまり、LCCに搭乗する人はおもてなしやサービスに多くを期待しないだろう。ごく一部のモンスタークレーマー以外は料金に見合ったサービスで満足していると思う。よりよいサービスを期待する向きには前述したバージョニングを行えばいいのである。

インプット問題や働き方改革を解決するには消費者、ユーザー、クライアントに対して「求めすぎない」運動を起こすべきではないか。10年後をにらんで企業の経営努力に加えて、政府、経済団体、各企業が一体となった運動で商慣習や消費行動のイノベーションを実現する時期に来ていると思う。


注1: 2030年までの中期経済予測に関しては下記を参照.

日本経済研究センター「2017.12 産業ピックアップ:主要産業で急低下する生産性の伸び」
https://www.jcer.or.jp/report/industry_pickup/detail5293.html

注2:
価格差別,バージョニング,バンドリングの解説は筆者の大学の講義ノートに基づく.

注3:
ワインジャーナリスト宮嶋勲氏の記事は下記を参照のこと.

「イタリア人に学ぶ働き方」(2018年3月9日付「日本経済新聞」朝刊)



【竹生孝央(ちくぶ・たかお)】(2011年より孝夫を「孝央」と改名しました)

 


ホーム当社について戦略コンサルティングと私たち|トップ&ミドルへの提言
コンサルティングのご案内人材募集リンク集サイトマップ

E-mail お問い合わせ
info@csconsult.co.jp
Copyright 1997-, C&S Consultants, Inc. All rights reserved.