今月の提言


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12月の提言:『2017年経済・ビジネス10大ニュースと来年の課題』

今年もまもなく終わろうとしている。今年の国内経済環境を一言でいえば、実感なき景気回復であろう。世界に目を転じると、トランプ大統領就任や英国のEU離脱による不安定な環境下で米国の好調さと新興国の復活の兆しが目に付いた。例年通り今年の提言の締めは、10大経済・ビジネスニュースを大胆に選択して、来年の課題を述べてみたい(注1)。
  • 大発会、東証2017年初取引、日経平均は約1年ぶりの高値(1月)
  • トランプ米大統領が就任(1月)
  • 英政府がEU離脱を正式通知(3月)
  • ヤマト運輸が宅配便値上げ発表(4月)
  • 中国の巨大経済圏構想「一帯一路」会議(5月)
  • 日産で無資格社員が検査。検査データ改ざんの企業も続出(9月)
  • 景気回復「いざなぎ超え」公算(11月)
  • みずほFGが1万9000人削減を発表。メガバンクにAIの波(11月)
  • 米FRB次期議長にパウエル氏指名(11月)
  • ディズニーが21世紀フォックスを7.4兆円で買収(12月)
今年は国内ニュースと海外ニュースが半々になった。まず、国内ニュースでは年初の東証初取引で日経平均は約1年ぶりの高値を記録した。米国株高、円安などが後押しして日経平均の初取引での値上がりは4年ぶり、上げ幅は1996年以来プラス749円の大幅増だった。1月末には米株価がニューヨーク株式市場でダウ平均株価史上初の2万ドルを突破、現在は2万5000ドル近くまで値上がりした。米株高の影響もあり来年の日経平均の見通しも強気の見方もある。

内閣府は9月の景気動向指数において2012年12月に始まった景気の拡大期間が58か月になる公算が大と発表。戦後2番目の「いざなぎ景気」(1965年11月〜70年7月)の57か月を抜くことが確実視される。経済成長を支えているのは世界経済の復調による外需で、GDPの6割を占める消費は依然低調で民間設備投資も同様である。政府は今年2月にプレミアムフライデーを開始するなど消費拡大に躍起だが、所得が増えても消費しない、いわゆる限界消費性向の低下を回復するには至らない。最近、増税の話が目に付くが、増税すれば消費にはマイナスの影響がある。来年はアベノミクスの正念場を迎える年になりそうだ(注2)。

ヤマト運輸は消費増税時を除くと27年ぶりに10月から宅配便を値上げした。ネット通販の拡大の影響で宅配便各社が相次いで値上げすることになった。9月には米トイザラスが連邦破産法11条の適用を申請、アマゾンとの戦いに敗れ破たんに至った。従来の店舗販売を行う「ブリック・アンド・モルタル」とネット通販のバーチャル店舗との戦いは、物流も巻き込んで次なるステージに入る。「クリック・アンド・モルタル」を超えたオムニチャネル化の動きにも目が離せない。

今年は暗いニュースも多かった。6月には欠陥エアバッグのリコール(回収・無償修理)問題を抱えるタカタが民事再生法の適用を申請、負債額は約1兆800億円と見込まれ製造業では戦後最大となった。9月には日産、その後スバルでも無資格社員による検査が発覚。また、神戸製鋼所、三菱マテリアルの子会社、東レの子会社で検査データの改ざんも次々と公になった。こうした不正等は日本の製造業の品質神話に影を落としブランドに大きく影響しかねない。データ改ざんの背景には「納品期間厳守」と「コスト削減」を求められた現場の疲弊があるように思われる。団塊世代の抜けた現場でノウハウの継承が円滑に行われていないという指摘もある。現場力の強かった製造業において、マネジメントの見直しが急務ではないか。

みずほフィナンシャルグループ(FG)は11月に10年後の2026年度末までに従業員数を約1万9000人削減するなどの構造改革案を発表した。三菱東京UFJ銀行や三井住友FGも業務量を減らす方針で、人工知能(I)やロボット技術などを活用するという。メガバンクにAIの波がひと足早く押し寄せた形だ。これはビジネスモデルが変わる銀行業界だけの話ではない。レイ・カーツワイルは2045年にAIが人間の知性を超えてシンギュラリティ(技術的特異点)が来る予測した。だが、現在その時期はもっと早まり2029年とする予測もある。いずれにせよ、多くの単純労働はAIやロボットに代替されることは確かだが、新たな仕事が生まれることも事実だ。日本は少子化で生産年齢人口が逓減している。今後フランスような有効な施策が講じられない限りこの傾向は変わらない。とすれば、日本とってシンギュラリティの到来は生産人口減を補う大きなチャンスともいえる。単に目先の「働き方改革」ではなく、もっと先の10年先を見据えた働き方改革や業務改革を行うべきだろう。

海外の出来事に関して、トランプ米大統領の就任と英政府によるEU離脱の正式通知がとりわけ重要だ。トランプ氏は1月20日に大45代米大統領に就任後、環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱のほか、イスラム圏7か国からの入国制限の大統領令に署名するなど矢継ぎ早に公約を実行し始めた。また、トランプ大統領は12月にはエルサレムをイスラエルの首都に認定するなど国際社会に波紋を広げた。2月早々にフリン大統領補佐官が辞任するなど政権幹部の辞任も相次ぎ混乱している。現在トランプ大統領の支持率は低下傾向にあり不支持率が支持率を上回っている。セクハラ問題がどこまで尾を引くは不透明だが、ロシア疑惑を含めて政権は万全とはいえず、米国経済の堅調さが救いだが来年も世界経済の不安定要因となりそうだ。

英政府は3月末に欧州連合(EU)離脱を正式に通知し、離脱日時は2019年3月29日午後11時とし離脱条件などを巡る交渉が始まった。欧州経済圏の主要国の中で英国は一人負けの様相を呈し、離脱の影響がいつまで長引くか、地盤沈下が続くのかは不透明だ。英国の離脱によりEUが分裂するリスクも捨てきれず世界経済の波乱要因であることは確かだ。

5月には中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」をテーマに各国首脳が協議する初の国際協力フォーラムが北京で開かれた。陸と海の経済圏構想は米国の相対的政治力の低下と相まって、覇権主義が見え隠れするだけに日本のスタンスも微妙だ。習近平国家主席が権力基盤が強化されたとみられ、今後の中国の政策に目が離せない。日本がアジアでの主導権を握って世界に働きかけるという光景は、20数年間ほとんど名目GDPが横ばいの結果プレゼンスが低下し夢のまた夢に終わったか。

11月にトランプ米大統領は連邦準備制度理事会(FRB)の次期議長に、ジェローム・パウエルFRB理事を指名した。下馬評通りで現理事でもあり、イエレン議長の路線を継承すると思われ低金利維持は変わらず混乱は少ないと予想される。大型減税の実施とともに適切な金融政策が行われれば、トランプ大統領の予想困難な言動による不安定要因を超えて米国経済は堅調に推移するものと期待される。

12月にはディズニーが負債の肩代わりを含め総額661億ドル(7兆円4000億円)で21世紀フォックスのエンタメ部門を買収した。この業界最大の合併が実現し、すでにルーカスフィルムなどを買収、ディズニーは米国のテレビ・映画界の40%を支配することになる。ディズニーはコンテンツ業界の水平統合型M&Aを進めるとともに、すでに1996年にABCを買収し垂直統合型M&Aを行っている。日本のコンテンツ業界、エンタメ業界も世界規模のスケールの大きい発想ができないものか。

では、2018年に向けての企業の経営課題は何か。その前に来年のIMF等世界機関の予測結果を要約しみよう。先進諸国の実質GDP成長率は潜在成長率並みに減速するものの米国の堅調さは持続すると予測される。ちなみに先進諸国平均で2%、米国は2.4%、日本は先進諸国中最低の1.3%である。新興国は穏やかな成長が続く。BRICsのうちインドが堅調で、中国がやや減速するもののロシア、ブラジルの回復基調が補う形となる。

このように来年の世界経済は穏やかな成長軌道にあることは確かだ。来年の企業の課題は内需不振が持続する中で成長する世界経済で活路を見出すこと、そして国内での未来に向けたマネジメントを模索することだろう。そのためには次の4点が課題となる。
  1. 現場のマネジメントの再構築
  2. 生産性の向上
  3. シンギュラリティに向けた働き方改革
  4. 新たな成功の鍵に発掘による戦略推進
相次ぐ不正データ問題が明らかになって、日本の製造業の十八番と言われた品質とこれを支えた現場力への信頼が喪失しつつある。グローバル競争の中でコストと納期は重要な要素だが、何かが欠落していなかったか。これは単にコンプライアンスやガバナンスの問題として捉えるのではなく、もっと高次のマネジメントとして対処すべきではないだろうか。つまり、トップマネジメントの問題として現場のマネジメントのあり方を再構築し信頼回復に務めるべきだろう。

生産性の向上もインプットを減少させるのみならず、有形固定資産に係る労働装備率だけではなく情報化、業務の抜本的見直し通じて改善させることが肝要だ。先月の提言でも述べた通り、生産性向上にはIT投資とイノベーションが不可欠なのである。

前述した通り、早ければ約12年後の2029年には人工知能が人間の頭脳を超えるという。そして約30年後の2045年には多くの人が働けない時代がくると予想されている。すでに世界最大のヘッジファンドがマネジャーをAIに置き換える動きがあるという。働き方改革で多様な働き方を模索するとともに、その一環としてAI時代のマネジメントあり方を考える時期だと思う。

最後に、多くの業界でかつての成功の鍵は変わりつつあるといわれている。たとえば、伝統的な店舗販売もオムニチャネル化によって明暗が分かれている。この際、未来のために、成功の鍵を再検討したうえで新たな戦略を模索すべきではないだろうか。

2018年は世界経済の堅調なうちに未来に向けて手を打ち、一層輝きを増す第一歩を踏み出す年になることを願うものである。


注1:
ニュースに関する情報は個別に明記していないがweb上あるいは紙媒体による.

注2:
戦後最長は2002年2月から2008年2月まで73か月の景気拡大期間,いわゆる「いざなみ景気」である.ただし,いざなぎ景気やバブル景気に比べて実質GDP成長率は低調で,名目では1994年基準でほぼ横ばいで好況感は乏しい.



【竹生孝央(ちくぶ・たかお)】(2011年より孝夫を「孝央」と改名しました.読みは同じです)

 


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