今月の提言


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5月の提言:『10年スパンで経営を考えるには』

6月になると3月期決算企業の株主総会が目白押しだ。ただ最近は集中日開催の比率が減少し2008年に50%を切ってから昨年は32%まで低下している。株主総会の主要議題の一つは取締役人事で総会の議決を経て正式に社長が任命される。こうして初春から総会まで紙面、メディアは社長人事の話題で賑わうことになる。

先日、三菱東京UFJ銀行のトップが任期1年足らずで退任するという報道には驚いた。健康上の理由であれば致し方ないが、任期を全うしても4年というのはあまりにも短いと思う。他の上場企業の社長の任期も4年から6年が一般的だ。

三品和広教授の研究から明らかなように、社長の在任期間と業績の間には正の相関関係がある。社長が10年以上長期間在任した企業の方が数年しか在任しない企業に比べて成長率や利益率が高い企業群が存在するのである。つまり、社長の任期の長さが業績に影響する。社長の任期は10年以上であることが望ましいのだ(注1)。

では、なぜ社長の任期は10年超の長い任期であるべきか。結論からいえば、長期的な視点から企業の成長軌道を描いて(これを企業ビジョンと呼んでもよい)、それを実現させるには10年以上はかかるからである。例えば製造業の場合、技術開発が陽の目をみて業績に貢献するには10年超の時間を要することが多い点を想起すれば分かりやすい。そして、日産の元社長・辻義文氏をはじめ多くの慧眼のトップは、改革には少なくとも10年の年月がかかることを喝破している。こうしたビジョンや改革を推進するトップが、2期や3期で交代するとすればどうなるか、結果は明らかであろう(注2)。

ところで、単に任期が長ければよいというものではない。当然のことながら、長期間社長(あるいはCEO)として会社に君臨していても業績がよくない会社もある。堀場雅夫氏(堀場製作所最高顧問)によると、社長には2つのタイプがあり、一つは「自らの権力維持に終始する」タイプだそうだ。このタイプの社長がいくら長く在任しても成果は期待薄だろう。このタイプのトップに思い当たる節がある読者は、そのトップの在任期間中の業績をチェックしてみるとよいだろう。もう一つは自社株保有の多寡とは関係なく、自覚の問題として「オーナーシップをもつ」タイプである。CSRや社員の雇用維持を最重視し、会社経営を自分の生きがいとして全力投球するタイプで、堀場氏は長い目でみればこのタイプの経営者がいる会社は伸びると述べている(注3)。

かつて日本的経営は中長期的成長志向で、米国企業は短期的利益志向といわれた時期があった。だが、本当に日本的経営あるいは日本企業の経営スタンスは、中長期的視点から考えられていたのか。筆者はこの点は疑問である。日本的経営の特徴といえば、終身雇用や年功序列型賃金体系、企業内組合、また系列取引などが代表的だ。特に、アベグレンが『日本の経営』で指摘したのは、終身雇用に焦点をあてた「終身コミットメント」であり、それは企業と従業員との間の長期的な関係を意味している。しかしながら、これをもって日本企業が、中長期的な視点からマネジメントしているとは言い切れるだろうか。多くの日本企業は、単にステクーホルダーとの関係を長期化しただけで、必ずしも戦略を中長期的に考えていたわけではない(注4)。

「小出しで、後手」に回るのは、何も政府の景気対策に限ったことではない。日本企業の多くは、中長期的展望のないままに「小出しに後手」で、海外の競合に遅れをとってきたのである。また、5年先、10年先のグランド・デザイン、ビジョンを描けずに、目先の収益に目を奪われてこの数年ジリ貧になっている企業も目に付く。また、十分な活用可能な資産、資源を持ちながら、それを遊休資産として放置している例は枚挙に暇がない。いずれも長期的視点の欠如によるものといわざるをえないのである。今、世界は地政学的リスクも含めて大きく変わろうとしている。今こそ真の中長期的視点から見たマネジメントが求められるのではないか。

こうした中長期的ビジョンや戦略に基づく経営を行うには10年超のトップの任期が不可欠なのは前述した通りである。そして10年超の任期中に高業績を達成するには次の3点が必要だろう(注5)。
  1. 10年超のスパンで変革を実現する強い意志。
  2. 10年超の長期ビジョンの確立。
  3. 環境変化に機敏に軌道修正する柔軟性。
まず、最初に意志ありきである。10年超のトップ在任を前提に目先の課題にとらわれず未来に向けて企業を変える不退転の意志を持つことが肝要である。そして、信念を持って、ぶれずに初志貫徹するのである。次に、何を変えて、会社をどのような姿、形にするのか、これを(長期)ビジョンとして明確にすべきである。最後は、「戦略は仮説である」という点を肝に銘じて、環境変化、状況変化に応じて機敏に軌道修正する柔軟性が重要である。長期政権・高業績の企業でも、軌道修正ができず撤退時期を逸したケースもある。

上述したように、企業を大きく変身させて中長期的に成長軌道に乗せるには、10年超の長期間社長を任せられる人物を選ぶべきではないだろうか。社長の10年任期が前提となれば、社長の選び方も自ずと変わってくるはずだ。未来を見据えて、ぜび社長の任期と選び方を再考してほしい。


注1:
社長の在任期間と業績との関係について,詳しくは下記の書籍を参照.

三品和広・編著『経営は10年にして成らず』(2005年11月、東京経済新報社)

注2:
以下は下記の拙稿の一部を加筆修正した.

2009年7月の提言『社長の任期はなぜ10年以上必要か』.
http://www.csconsult.co.jp/teigen/0907.html

注3:
堀場雅夫「終わらない話:よい社長の見分け方」『日経ビジネス』(2009年6月29号 p.130)による.

注4:
中長期的視点からのマネジメントに関しては,拙著『ブランディング・カンパニー』(経林書房,現在絶版)のpp.132-133の一部を加筆訂正したものである.

注5:
注2の拙稿による.



【竹生孝央(ちくぶ・たかお)】(2011年より「孝央」と改名しました)

 


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