今月の提言


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3月の提言:『今こそ小泉元首相のリーダーの資質に注目!』

先日、リーダー、トップの資質の話になって小泉元首相の話題になった。企業や大学で象徴的なリーダーとは誰かを問うと、カルロス・ゴーン、松下幸之助、本田宗一郎そして盛田昭夫とともに今でも小泉純一郎の名前が出るという(以下、敬称略)。

小泉元首相は2001年4月に自民党総裁に選出され、当時「失われた10年」の突破口が見い出せない状況下で、財政再建、金融経済の構造改革が急務であった。つまり、日本を変えなければいけない状況の中で、「自民党をぶっこわす」「郵政民営化」といった改革を訴えた小泉が、自民党員とその背後にいる国民の支持を得たのである(注1)。

そして、いわゆる「郵政解散」により2005年9月11日に行われた総選挙は自民党の大勝利に終わった。これは小泉元首相の選挙戦略の勝利というよりも、小泉のトップとしての資質によるところが大きいと思う。すなわち、こうした環境下で日本の政治のリーダーとなった小泉のトップとしての優れた点を列挙すると、次の5点に要約されよう。
  1. 信念と情熱をもってビジョンを示し、実行。
  2. 分かりやすい言葉で発信。
  3. 時代の流れ、消費者(民)の声を鋭く把握。
  4. 既成観念・勢力を打破。
  5. 引き際を知る。
以上は小泉元首相のリーダー、トップとしての資質を念頭に置いたものだが、本稿では上記の点と安倍首相を比べて評価することを意図しない。筆者は上述した5点は21世紀に生き残る企業のトップに求められる資質でもあると思う。

この中で筆者が特に重要だと思うのは1と2である。先行き不透明な時代に信念をもって方向を示し、断固として実行する熱意がなければ、改革は前進しないからだ。そして、トップにはビジョンを、例え「ワンフレーズ」と揶揄されようとも、分かりやすく人々に伝える能力が求められる。

松下幸之助は晩年こそ言語不明瞭であったと聞くが、その主張は極めて明解であった。例えば、「水道哲学」や「会社は社会の公器」という言葉は極めて分かりやすい。特に後者は、企業の社会的責任(CSR)の本質を突いた言葉で、筆者には40年前の言葉だとは思えない。また、ソニーの盛田と出井両氏を比べてみると、盛田の分かりやすさがよく理解できる。トップにビジョンがあっても、分かりやすく伝える能力がなければ決して人には理解されず、まして実行されることはないのである。

ところで、ビジョンという言葉には注意が必要だ。かつて日本では、荒唐無稽な目標や大言壮語が「ビジョン」としてまかり通った時代があった。それゆえ、今でもビジョンを毛嫌いするトップも少なからず存在する。だが、ここでいうビジョンは従来のものではない。

欧米や日本企業の多くはミッション(使命)を掲げてマネジメントを行っている。通常ミッションは企業の目標や存在理由、目標達成手段の骨格等が明示されており、戦略体系の基本である。従って、戦略をもつ企業であれば概ねミッションを定めている。こうしたミッションが行動レベルにつながるまで社内に浸透して、はじめてビジョンといえるのである。従って、「信念と情熱をもってビジョンを示し、実行する」とは、マネジメントの言葉に言い換えると、「行動に結びつくミッション」を示すということになる(注2)。

日本経済は過去20年余名目GDPは横ばいという先進諸国の中でも稀有な低迷の中にある。かつグローバルな競争環境下で、勝ち組と負け組みの差が顕著になりつつある。今後の勝ち組として生き残ることが出来るかどうかは、従来の発想あるいは段階的改良発想を超えて、大きな変革に向けて舵取りが出来るかどうかにかかっている思う。

今こそ、日本企業には小泉型リーダーシップをもつトップが必要ではないか。百年とはいわず、10年の大計を持ってこのような経営トップを選任できる企業こそ、明日の企業価値の向上を真剣に考えており、優れたコーポレート・ガバナンスの仕組みをもつといえる。後継者を選ぶ現在のトップあるいは指名委員会(委員会等設置会社)の責任が、今ほど重い時期はない。

新年度に入り6月末まで新社長人事が目に付く時期である。東芝や三越伊勢丹のような社長人事は別にして、上述した点を踏まえた未来を見据えた社長人事かどうか注目したい。


注1:
小泉元首相のトップの資質に関しては下記の拙稿をベースにしている.

2005年10月の提言『小泉首相にみるトップの資質』.
http://www.csconsult.co.jp/teigen/0510.html

注2:
こうしたビジョンを実現している企業を「ビジョナリ・カンパニー」という.



【竹生孝央(ちくぶ・たかお)】(2011年より「孝央」と改名しました)

 


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