今月の提言


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12月の提言:『世界同時不況下で何をなすべきか』


最近の世界のニュースは不況色一色である。まさに世界同時不況の様相を呈しており、世界大恐慌の到来を叫ぶ論者もいる。現に書店の経済・ビジネス書コーナーの店頭には『世界恐慌前夜』『世界金融恐慌序曲』など世界恐慌本が所狭しと並んでいる。今回は、1929(昭和4)年10月24日のニューヨーク証券取引所の株価大暴落に端を発した世界恐慌の歴史を踏まえて、今企業が何をすべきかについて述べてみたい。

世界恐慌下で当時の日本は、中村隆英氏によると次のような状況であったという(注1)。
  1. 合理化運動の活発化
  2. 農村の窮乏
  3. 中小企業の危機
  4. 失業の増大
  5. 政治的動揺
まず合理化運動については、生産工程の合理化、個別産業に関してカルテル(企業連合)化やトラスト(企業合同)化が進んだ。主要業界のカルテルは1932年には83あったが、そのうち48は1930年以降に出現した。具体的には、製紙業界、セメント業界が操業短縮、価格などのカルテルを結んだ。企業合同化に関しては、当時の6大紡績会社の一つ大阪合同紡の東洋紡への吸収合併、王子製紙の富士製紙に対する支配権の確立などである。また合理化の名のもとで人員整理や減資が行われた。

次に、世界恐慌時の日本の産業構造をみると第1次産業就業者が全体の約5割を占めており、当時の日本は農業国であった。世界恐慌による米国向け生糸輸出の激減と、生糸価格の下落、および他の農作物価格の下落により、就業人口の多くを占める農家は困窮し、とりわけ養蚕農家の被害は大きかった。現在、第1次産業の就業人口は全体の5%を切っており、GDPに占める割合も1%台なので、当時ほどの影響はないだろう。

三番目に、第一次世界大戦(1914-1918)後、軽工業、重工業などの下請け、輸出雑貨など多くの中小企業が出現した。世界恐慌による輸出不振、内需不振による打撃に加えて、リスクの高い中小企業への銀行の貸し渋りは中小企業を直撃した。

四番目に、不況下で当然のことながら失業者は増加する。1929年には4.3%であった失業率は、1932年には6.9%に急増したが、当時の失業統計が完全ではなかったため、実態はもっと悪化していたようだ。工場閉鎖や縮小による解雇、賃金の引き下げ等労働条件の切り下げが相次ぎ、ストライキ等の労働争議が頻発した。特に、当時大卒の「インテリ」の失業問題が特徴的だったという。

最後の政治的動揺に関しては、日本において不況が表面化する前の1930年2月の総選挙で与党民政党が大勝した。民政党は金解禁と軍縮を政綱とするが、台頭する右翼と軍部、野党政友党とのせめぎ合いの中で政治的混迷を深めていった。

上述した5つのの中で、今回の「世界同時不況」下で出現するのは、合理化の動き、中小企業の危機、失業の増大であろう。この3つは昭和恐慌の際と同様な状況が出現しており、失業対策として役所が雇用の受け皿になるなどの行政の対策もほぼ同様である。政治的動揺は今回は不況以前から生じていると思われるので割愛した。

ところで、昭和恐慌と現在とでは次の5点で大きく環境が異なる。こうした環境変化が、5年から10年はかかるといわれている世界同時不況の回復にプラスの影響を及ぼすものと思われる。
  1. 世界大恐慌の歴史、経験から学ぶことが可能
  2. ケインズ経済学をはじめ経済政策の発展
  3. グローバル経済の進展
  4. 金融化、金融市場の発展
  5. インターネットの発展
問題は上述した環境変化をどのように考え、行動に移すかが重要である。前述したとおり、歴史や経験から学びさまざまな不況対策やマクロ経済学をベースにした経済政策が講じられようとしている。そして、世界経済のグローバル化の進展が、日本企業にとって「東アジア統合」、中国を中心とした生産ネットワークの形成といった構造変化を引き起こした点は注目すべきである。今後も経済のグローバル化、東アジア統合などのネットワーク化は進展するだろう(注2)。

また、水野和夫氏はグロバール化により、帝国化、金融化、二極化の3つの構造変化が生じたという。この中で「金融化」は、投資銀行やヘッジファンドなどのビジネスモデルを生み、今回の世界同時不況の源流となった。しかし、破綻を免れたゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーは商業銀行の資格を取得し、投資銀行から商業銀行へと変身しようとしている。金融化を牽引したビジネスモデルは急速に力を失い、世界的な金融の収縮が始まった。だが、グローバル経済の発展が中長期的に金融市場のグローバル化をさらに促すことは間違いない。実物経済のボーダーレス化に伴い、新たなる金融化が始まろうとしている(注3)。

インターネットの発展が社会経済に大きな影響を与えた点については、さまざまな論点があるだろう。筆者は、インターネットの「情報性」に注目したい。すでにインターネットによって、「いつでも、どこでも、だれでも」世界の情報にアクセスできる環境は整っている。つまり、現在は「情報」を通じて世界経済の動きが「より早く」「より大きく」変化することを意味する。人々や企業は、それぞれの目的のもとに、情報というインプットにより、行動というアウトプットを行うからだ。情報がリアルタイムに世界をかけめぐれば、行動の変化速度は速くなるだろう。世界同時不況の加速スピードが速いと同時に、先行きに明るさが見えてくれば回復速度も速くなるものと思われる。

もっと身近な問題として、インターネットを通じた情報によるロングテール現象がある。アマゾンの例でよく知られているように、ネットショップでは売れ筋商品のみならず、リアル店舗では店頭に並べられないあまり売れない商品も拡販できるのである。すべてがロングテール現象に起因するわけではないが、今年の日本におけるボーナス商戦では楽天やヤフーなどのネット販売が過去最高の売上高を記録したという。米国でもクリスマス商戦でのアマゾンの独り勝ちが伝えられている。百貨店や専門店の売上不振が続く中で、3次元コンピューターグラフィックス技術やワン・トゥー・ワン・マーケティングの活用によりネット販売は次世代型へと進化していくだろう。

世界同時不況下で企業も政府も過去から学んだ対策を講じるのは当然である。しかしながら、筆者はこの時期にこそ、東アジア経済統合などの構造変化、金融化への新たなる対応、インターネットの情報性、などについて熟考して今後の行動に役立ててほしいと思うのである。歴史から学ぶとともに、次代に向けて新たな歴史をつくるために。



注1:
中村隆英『昭和恐慌と経済政策』(講談社)

注2:
東アジア統合、生産ネットワークについては元大蔵省財務官、ミスター円で知られる榊原氏の著書を参照.「マクロ経済学をベースにした経済政策では,構造変化が進行する現在のグローバル経済の処方箋は書けない.個々の産業を部分で対処する構造政策が必要」とする同氏の指摘は傾聴に値する.

榊原英資『まちがいだらけの経済政策』(日本経済新聞社)

注3:
グローバル化と構造変化については下記を参照.

水野和夫『人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか』(日本経済新聞出版社)



【竹生孝夫(ちくぶ・たかお)】

 


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