今月の提言


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9月の提言:『資本主義経済と企業経営の基本』


サブプライムローン問題に端を発して、9月29日のNY株式市場では史上最大の下落を記録するなど世界経済の先行きに危機感が強まっている。そこで、今回は資本主義経済について考えるとともに、企業としての取るべき道を述べてみたい(注1)。

後世の経済史家は20世紀は社会主義の崩壊と資本主義が勝利した世紀であったと位置付けると思う。では何故社会主義は崩壊したか。 筆者は次の3点が決定的だったと考える。
  1. 計画経済のような中央集権的経済システムは、市場を活用した分権的システムに比べて資源配分上非効率だった。
  2. 単一のイデオロギーや独裁的政権による統制が情報化社会の中で人心を捉えるには無理があった。
  3. 平等という名の悪平等が、国民の労働意欲を減退させ、経済全体の活力をそぐ結果となった。
旧ソ連や中国の社会主義国家としての崩壊は、市場に委ねる分権的な資源配分に敗北したといっても過言ではない。この意味では、資本主義とは民間資本を中心にして、市場の力を活用したシステムだといえる。カール・マルクスが述べたような、「資本主義がそれ自体の客観的矛盾によって崩壊」して、社会主義が誕生、発展する、と言う結果には至らなかったわけだ。

ところで、筆者は起業家精神を述べる際にシュンペーターの著書から引用することが多い。だが、シュンペーターは、「資本主義は成功ゆえに崩壊し、社会主義に至る」と考えていた。ノーベル経済学賞の受賞者であるサミュエルソンは、ハーバードでシュンペーターの講義を聞いて、この言葉に反発して資本主義を守るために混合経済を提唱したという見方もあながち嘘とはいえない。いずれにせよ、マルクスもシュンペーターも資本主義が崩壊して社会主義に至ると考えた点は間違いだったわけで、草葉の陰で現在の資本主義を見守っている両巨頭に、弁明を聞いてみたいものだ。

勝利した資本主義だが、決して万能でないのは今回の危機からも理解できるだろう。市場主義万能からヨーロッパ諸国で実験中である「第三の道」という考え方が生まれた。社会学者のアンソニー・ギデンスなどが提唱したものだが、市場経済の枠組みの中で、社会正義と自由と公正を実現しかつ効率的な経済運営を行うには、企業の力を規制するしかないという考え方だ。こうした「第三の道」の道も英国のブレア政権の人気が低下し、結局退陣したように、資本主義の欠点を是正する唯一の道ではない。21世紀は“市場の力”を生かしながら、新たな資本主義の道を模索する世紀になることは確かだ(注2)。

資本主義がどのように修正されようが、企業はゴーイング・コンサーンで生き続けなければならない。単なる会計原則の前提としてではなく企業の社会的責任の一環として継続性は重要である。では、企業はどうあるべきか。 筆者はこの際資本主義の原点を考えるべきだと考える。すなわち、次の3点が重要である。
  1. 市場の力を生かして効率性を追求する。
  2. 価値観の多様性を認めて個人の創意を育む
  3. 悪平等を廃してインセンティブを与える
企業がこうした原点を見つめて変革していれば、例え各国政府が資本主義を修正して介入する動きがあっても、企業にとって影響が軽微だと思う。何故ならば、いかなる政府といえども、もはや市場機能のメリットを知った以上それを捨て去ることはありえないと考えるからだ。

企業は先ず愚直に“市場の効率性”を考えるべきだ、と筆者はいいたい。「市場」とともに歩みその機能を十二分に活用することこそ、今後の企業の基本であることを肝に銘じるべきだと思う。但し、ここでいう「市場」とは決して金融市場のことをいっているのではなく、実物経済での製品・サービス市場などを念頭においている点に留意してほしい。市場で優位に立てるベストな製品・サービスを効率的に提供すること、これが最重要なポイントなのである。

そして、新分野・新市場(海外市場を含む)への挑戦、持続的改革、起業、創発型マネジメントなど個々人の創意に委ねられる分野で、いかに他社に優れるかどうかで中長期的な企業の業績は左右されるだろう。さらに「格差」の存在と是正の必要性は認めるが、資本主義の本来の活力は「悪平等」からは生まれない。個々人の創意、努力に対して適正な評価とインセンティブがなければ、資本主義、企業のダイナミズムは徐々に失われていくと思う(注3)。

米国発の世界経済の危機に直面して、資本主義の利点を再認識するとともに、資本主義経済の中で成長を持続するための原点を考えてほしい。本稿がその際の一助となれば幸いである。


注1:
本稿は筆者の個人のホームページにて発表した「20世紀は資本主義凱旋の世紀」(2000年12月25日付)を基に執筆した.

注2:
京都大学の佐和隆光教授の『市場主義の終焉』(岩波新書, 2000年10月)の中の提言は、このような「第三の道」の流れを汲んでいる.

注3:
創発は「複雑系理論」のEmergenceの訳語で、「個々の自発性が全体の秩序を生み出す」という自然界の性質を意味する。創発型マネジメントとは、このような性質を経営に取り入れることで社員1人ひとりの発想を支援し、やる気や創造性を向上させる手法である(田坂広志氏による説明を筆者が要約).



【竹生孝夫(ちくぶ・たかお)】

 


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