今月の提言


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8月の提言:『ポートフォリオ経営とM&A戦略』


最近ポートフォリオ経営が復権している。「選択と集中」を超えて、成熟市場の中で成長戦略を模索しようとすれば、ポートフォリオ思考が不可欠である。そこで、ポートフォリオ・グラフを再認識して活用することをお薦めしたい(注1)。

ポートフォリオ経営を実践するために、次の3つのポートフォリオ・グラフを描いてみてほしい。いずれも横軸は相対シェアか社内構成比、縦軸は業界の成長率か社内伸び率をとる(注2)。
  1. 製品・事業ポートフォリオ
  2. エリア・ポートフォリオ
  3. 技術ポートフォリオ
まず、「製品・事業ポートフォリオ」によって、製品・事業ミックスのバランスはよいか、成長分野が育っているか、などをみる。主力製品・事業の成長性が鈍化し、かつ主力のウエートが高ければリスクは高い。成長分野が育っていなければ、第2、第3の事業の柱を育成することが急務である。

「エリア・ポートフォリオ」は国内、海外のエリア別売上高を描いて、成長エリアの有無と売上高の偏りをチェックする。国内エリアの成長性が鈍化していればどうするか。国内の成長エリアがあればそのポテンシャルを判断して注力する手もあるが、なければ海外の成長市場(エリア)への展開を視野に入れざるをえないだろう。

最後に、「技術ポートフォリオ」は、技術分野別に研究開発の成果のバランスと今後の成長分野開発のシーズを育んでいるかどうかをみる。目先の改善・改良中心では、お先真っ暗である。

上述したポートフォリオ・グラフによって、現状をチェックした上で、製品・事業、エリア、技術などのバランスを考えるべきだ。投資理論によれば、分散投資はリスクを軽減する。投資理論のアナロジーで、将来を考えれば主力製品・事業以外、主力エリア以外への展開(分散)を行い、リスクをヘッジすべきだと思う(注3)。

ところで、昨年3月の提言「成熟市場における成長戦略を考える」の中で、次の5つの戦略オプションを示した。
  1. 新分野への参入
  2. 市場の創造
  3. 国内エリア展開
  4. 海外市場での拡販
  5. M&Aの活用
上記の1〜4のいずれが最適な戦略オプションであるかは、上述したポートフォリオ・グラフによる診断から導かれる。しかしながら、こうした戦略オプションを実行するには時間がかかる。そこで、5番目の「M&Aの活用」が生きてくるのである。

手元にM&Aに関する調査結果がある。この結果をみると、日本の上場企業および未上場有力企業の85%は、M&Aを成長手段として位置づけている。ところが、65%の企業は、事業計画の中に具体的なM&Aが盛り込まれていないのである(注4)。

成長戦略を描く上でポートフォリオ発想は不可欠だが、M&A戦略と連動させることが実効性を高めることになる。昨今の買収防衛策によりM&A市場に対してマイナスの影響が懸念されるが、社風のよい企業による真に企業価値を高める買収提案であれば、多くの株主は賛成するはずだ。ポートフォリオ思考を踏まえて今後の育成分野を明確化した上で、戦略的意義、シナジー効果などを踏まえたM&A戦略の立案をお薦めしたい(注5)。


注1:
かつてポートフォリオ経営といえば、BCG流の成長・シェアマトリックスによる製品ポートフォリオ・マネジメントが代表的である.この手法に対する主な批判は、単純すぎるというものだ.確かに「金のなる木」でえたキャッシュを「花形」や「問題児」に投資し、「負け犬」は撤退するといった単純な図式では戦略は立案できない.だが、ビジネス・グラフィックスとして割り切って、現状の事業ミックスやエリア展開のバランスを評価する手法としてみると、今でも十分に使える.

注2:
グラフの中の円の大きさ(直径)は製品・事業の売上高、国内・海外のエリア別売上高、技術分野別特許等申請件数などを示す.

注3:
投資理論としての現代ポートフォリオ理論によれば、分散投資によりリスクを減少させることができる.

注4:
PwCアドバイザリー株式会社による「M&A実態調査2007」で、調査の概要は次の通り.
  • 調査期間:2007年9月3日〜2007年10月31日
  • 調査対象:調査対象企業数 6,511社[上場企業3,959社;未上場企業2,552社](未上場企業は未上場四季報より売上高100億円以上)
  • 回収状況:回答企業 276社(回答率4.2%)[上場企業213社(5.4%);未上場企業63社(2.5%)]
注5:
もしM&A資金面での懸念があっても戦略的に優れていれば、投資ファンド等からの資金調達が可能性だ.ただし、ファンドの提案するスキームが自社にとって本当に有利なのかどうかは、慎重に検討することが肝要である.



【竹生孝夫(ちくぶ・たかお)】

 


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