今月の提言


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6月の提言:『監査役機能の強化に向けて』


今年の3月期決算企業の株主総会は6月27日がピークで東証上場会社1806社中869社、約48%が集中したという。今年の総会では写真処理機大手のノーリツ鋼機の社長人事が覆ったほかは比較的順調でほとんどが会社側の主張が通った。また、買収防衛策の導入や株式持ち合いなどへの批判がある中で約200社が防衛策を決議した。株主総会が終わって改めて日本企業のガバナンスについて考えてみたい(注1)。

従来日本企業の企業統治は、周知の通り形としては株主総会、取締役会、代表取締役および監査役(会)からなっていた。会社法上は日本企業の株主は取締役の任免権をもつ。この点は米国企業の株主と同様で、「株主は企業統治の主権者」なのである。つまり、株主は会社の最高意思機関である株主総会において取締役を選任し、取締役をメンバーとする取締役会が業務遂行上の意思決定を行うことになる。また取締役会は代表取締役を選任して会社の代表者として業務を執行させ、かつ業務執行を監督する。さらに株主総会は監査役を選任して取締役の業務執行を監査させる。

会社法上は上述したように日本企業のガバナンス機構は整備されている。しかしながら、株主総会は特定日に集中して、「最高意思決定機関」としての機能を果たしているかどうかは疑わしい。また、日本の大企業のほとんどは取締役会以外に常務会や経営会議などを開催して、実質的な意思決定を行っている。そして、代表取締役を監視するはずの取締役や、経営トップと取締役会の双方を監視すべき監査役(会)は、会社の代表者である会長や社長の意向を踏まえて選任される。すなわち、実態としては、監視あるいは監査される側の経営トップの方が立場が強く、実効性の点では問題がある。

このような背景から、1990年代に入り企業統治に関して法改正が行われた。時系列的に主な流れをみると、下記のとおりである(注2)。
  1. チェック機能の強化と透明性の確保確保(株主権の強化と監査役監査機能強化)
  2. 財務戦略の弾力化(自己株式取得緩和)
  3. 企業の社会性の確保(PL法の施行)
  4. 報酬制度の改革(ストックオプション制度導入)
  5. 企業構造の変革(持株会社解禁)
  6. 企業再編手法の多様化(株式交換・株式移転方式、会社分割法)
  7. 株式単位の自由化・種類株式の多様化(新株予約権等解禁)
  8. チェック機能のさらなる強化(監査役制度の強化)
  9. 株主代表訴訟制度の整備(取締役、監査役、会計監査人の責任と免責の明確化)
  10. 取締役会改革(委員会設置会社導入)
個々の詳しい説明は省略するが、ここでは「チェック機能の強化」と「取締役会改革」に注目したい。01年11月の商法改正により監査役の権限の強化が図られた。つまり、監査役の取締役会への出席・意見陳述の義務化、社外監査役の要件の厳格化と人数の増加(従来の最低1名以上から半数以上へ)などである。他方、会社法においても内部統制システム構築の基本方針決議への監査等も含め、監査役の権限がさらに強化された。

2002年の商法改正(03年4月施行)で新たに米国型の統治機構である委員会設置会社が導入され、従来の監査役設置会社との選択が可能になった。委員会設置会社導入の狙いは、過半数以上が社外取締役で構成される指名委員会・報酬委員会・監査委員会の3委員会を活用して経営と業務執行を分離を図る点にあった。ところが、当初の目論見とは異なり日本では委員会設置会社への移行が進んでいないのが現状だ。日本監査役協会の調べによると、07年12月現在で導入企業数は110社で、うち上場企業は72社である。委員会の導入が進まない理由として、従来の監査役制度を廃止することへの抵抗感や、トヨタのように委員会設置会社でなくても効率的な経営が可能である点があげられる。現に、委員設置設置会社の時価総額の伸びは、東証一部上場企業全体のそれを下回っているとのデータもある(注4)。

米国型の企業統治機構が馴染まない以上、現状では経営のチェック機能は監査役(会)に委ねるしかない。ここで監査本来の目的は、「経営者の業務執行が経営目的に適合しているかを調査し、問題があれば改善を要請することで会社の持続的成長に貢献すること」であり、監査役の役割は「経営者が企業不祥事を発生させることがないよう体制を整備して予防すること要請」する点にある。では、こうした目的や役割を前提にして監査役機能をいかに強化していくか、それには次の3つのステップが不可欠だと思う(注5)。

第1ステップ:経営トップの監査役との目的の共有化

第2ステップ:監査役の意識・行動革命

第3ステップ:ステレオタイプ化された監査報告書から真の監査報告書への脱皮

まず、経営トップが監査機能をいかに考えるかが重要である。トップが監査役(会)の機能をよく理解し重視しなければ、会社全体も動かない。上述した監査の目的と監査役の役割をベースに、トップと監査役は会社の永続的な発展という視点から、監査機能の目的を再確認すべきだ。

監査役の業務は各社各様だといわれている。つまり、企業によってさまざまな監査パターンがある。しかしながら、従来の監査にとらわれることなく、「会社の持続的発展」というキーワードをもとに、新たな監査のあり方を模索してほしい。それには現場主義に徹して事実に基づく問題点の抽出が不可欠だ。監査役の意識改革と行動改革が求められているのである。

最後に、よくみかける「監査報告書」はなんと無味乾燥なことか。真の監査報告書は、事実に基づく問題点の指摘と改善提言であるべきだ。従来から引き継がれてきた監査報告書から、企業価値向上という観点から業務執行及び取締役の監督をチェックする報告書へと変化すべきではないだろうか。

いくら企業統治が優れていても戦略がよくなければ企業価値は向上しないは事実である。しかし、たとえ戦略が優れていても企業統治に問題があれば、企業価値が下振れするリスクは高い。株主総会が終わり、取締役や監査役体制が変わったこの時期に、今後の監査役(会)機能を再考することをお勧めしたい。


注1:
集中日の開催企業数は野村金融証券研究所の調べによる。警察庁によると、集中日としては前年より142社少ない1315社が全国で一斉に開催したという.

注2:
企業統治の法改正の流れについては下記を参照.

寺本義也編著『日本企業のコーポレートガバナンス』生産性出版、1997年9月.

菊澤研宗『比較コーポレート・ガバナンス論』有斐閣、2004年11月.

注3:
委員会設置会社110社中、日立グループが19社、野村グループが14社と合計33社、約3割を占めている。詳しくは、日本監査役協会の作成したリスト(こちら)を参照.

注4:
時価総額に関するデータは05年8月16日付「日本経済新聞」朝刊による.なお、委員会設置会社導入にあたっての問題点は、次のとおり。
  1. 取締役と執行役との兼任による監査機能の弱体化
  2. 社外取締役の人材難
  3. 社外取締役の実効性への疑問
注5:
引用文は日本監査役協会の前会長の笹尾慶蔵氏の著書『会社を良くする監査役〜監査役の心構え』(同文館出版、07年7月)による。笠尾氏は旭化成の常勤監査役から常務、副社長に就任した後、常勤監査役に再任し、04年10月より07年10月まで日本監査役協会会長を務めた。



【竹生孝夫(ちくぶ・たかお)】

 


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