今月の提言


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4月の提言:『株主総会で「あなたの会社」と呼びかけよう!』


4月になって興味深いシンポジウムや会議が開催された。全国社外取締役ネットワークが開催した5周年記念シンポジウムと日本コーポレート・ガバナンス・フォーラムの定例勉強会である。いずれも白熱した議論が展開された。前者のテーマは『“株主重視”が日本を変える』であり、後者は『敵対的買収とコーポレート・ガバナンス:投資ファンドの視点』であった(注1)。

議論の詳細については別の機会に譲るが、筆者には、講演者やパネラーたちが日本企業の経営効率、資本効率の悪さ及び株主軽視の姿勢を重大問題だと認識している点が印象に残った。この背景には、日本が世界の資金の流れから取り残されるのではないかという危惧がある。

先月の提言で述べたとおり、企業価値には大きく3つの考え方がある。その中でもっともシンプルな評価は、株式の時価総額をベースとするものだというのが世界の共通認識になっている。したがって、企業価値の向上を考える場合、「時価総額」が重要な要素となる。 では、日本の現状をみるとどうか。サブプライム・ローン問題で世界の株価は低迷しているが、その中でも日本は米国よりも株価の下落幅が大きい。その理由は、海外の投資家が日本企業の効率経営の軽視、株主軽視といった姿勢に失望した点にあるようだ(注2)。

日本企業の効率の悪さは自己資本利益率(ROE)のデータを見れば明らかだが、日本企業が投資ファンド等の経営の効率化に関する提案に真摯に耳を傾けず、効率経営に対する熱意を感じられないという失望感の影響の方が大きい。それよりも筆者は、日本企業の経営トップの多くは無意識のうちに株主軽視とみられる行動をとっている点が気になるところだ。

たとえば、株式持ち合いの復活、上場企業の買収防衛策の導入、株主の権利を制限する優先株の発行などは、海外からは株主軽視とみられる。何故か。それは何故に「持ち合い」が復活しているか、何故防衛策を導入するかを考えてみると分かるはずだ。株主の持ち合いで「物言わぬ」株主が増えるとどうなるか。一般株主の議決権を奪うことになり、結果として経営の監視機能が損なわれることになる。防衛策に関しても、企業価値を高める可能性のあるM&Aが防衛されることになれば、株主の利益は損なわれる(注3)。

ここで、「会社はだれのものか」といった議論をするつもりはない。しかしながら、欧米の企業は株主総会で、株主に対して「あなたの会社」と呼びかけるという点に注目してほしい。一方、日本企業はといえば、「わが社」あるいは「われわれの会社」と呼びかける企業が大半だろう。「わが社」と呼ぶことで、無意識に株主との間に溝をつくっているのである。この差が日本企業の「株主軽視」ととられがちな行動の背景にあると思う。

そこで、提案だが6月の株主総会では、集まった株主に対して「あなたの会社」と呼びかけてみてはどうだろうか。役職でなく、「さん」づけで呼び始めて会社の雰囲気、社風が変わった会社は多い。「あなたの会社」と呼ぶことで、会社と株主との距離は一層近くなるのではないか。少なくても、会社と株主は対立する関係ではなく運命共同体ということを双方で認識する第一歩となることは確かだ(注4)。

ところで、英系投資ファンド、ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)のアジア代表であるJohn Ho氏の主張には共鳴できる点は多い。ただ、全体の話のトーンの中に流れる「会社をモノと同様に値段次第で売り買いする」というニュアンスには、頭で理解できても納得しがたい思いがある。それでも、「日本企業の価格(株価)はこれだけ安く、買い得なのに、それでも世界の投資家が逃げていくのはどうしてか」という問いかけを真摯受け止め、対策を講じるのがこれからの経営トップだと思う。

株主に「あなたの会社」と呼びかけることで、企業の価値と株主の価値とは何か、企業価値向上にとって企業統治とは何かを再考し、真に企業価値向上企業として変身する契機としてほしい(注5)。


注1:
社外取締役ネットワークのシンポジウムでは,東京証券取引所の斉藤惇社長,オリックスの宮内義彦会長などの講演のあと,日本IBM特別顧問の北城恪太郎氏,クレディ・スイス証券マネージング・ディレクターの大楠泰治氏,早稲田大学大学院教授・川本裕子氏,企業年金連合会部長・木村祐基氏をパネリストとするパネルディスカッションが行われた.そして,『敵対的買収とコーポレート・ガバナンス:投資ファンドの視点』のスピーカーは,Jパワー問題で話題の英系投資ファンド、ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)のアジア代表John Ho氏であった.

注2:
市場関係者の間では,この2点に加えて日本の構造改革の遅れが昨年(2007)の8月9日以降の株価の下落の背景にあるとみている.特に8月7日に最高裁がブルドックソースの買収防衛策を適法と認め,同月9日に同社が防衛策を発動したことで、外国人投資家の日本株離れが進んだという.

注3:
「買収防衛策は不要.むしろ買収者に経営を任せた方が企業価値が向上するのであれば,現経営者が辞めやすいような処遇を考えるべき」という日本IBM特別顧問の北城恪太郎氏の発言は傾聴に値する.

注4:
早稲田大学大学院教授・川本裕子氏が指摘しているように,「企業価値を高めるには株主対会社の対立軸は不要」なのである.

注5:
もちろん企業統治がいくら確立していても,戦略が悪ければ業績があがるわけではない.企業統治が優れている企業は、経営を監視する目が確立しているので,業績が悪くなれば戦略も転換される.戦略が優れていて,それが着実に実行され,かつ企業統治が優れていれば,中長期的にさらに企業価値は向上するだろう.



【竹生孝夫(ちくぶ・たかお)】

 


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